2015年1月26日月曜日

シャーリーエブド襲撃事件2 フランス人の反応の背景

1月も下旬になり、
7日の襲撃事件、その週末の行進を経て、少しずつ冷静になりつつあるフランス。
各方面で、出来事を分析したり、現在の経過をレポートしたり、
今後どうしていくべきかの話し合いがたくさん行われています。

ところで。
前回の記事を書いたのがシャーリーエブドの新号発行直後だったため、
各メディア、各国の反応はあんまり分からず、の状態だったのですが、
私はあの絵を見て温かい、ぐっとくるものを感じたのでした。
だから、記事を書いたのだけど、
世の中の反応はそれだけではなかったようで、
ネガティブなリアクションには、けっこう本気で衝撃を受けました。

ついに私もフランスかぶれ・・・!!
・・・というわけではなく、こちらに来てからフランスの歴史とか
政治のスタイルを学び、聞かされ、
この人たちがどうしてこういうアクションを取っているのか、
どうしてこういう反応なのか、という裏側の部分が少し見えるからだと思います。


日本の反応で良く見かけたのは
「あんなのを描いたら挑発と取られてもしょうがない」
「表現の自由って言ったって、相手の気持ちを考えるべき」というもの。

これ、直感的には私の中にもあります。
基本的に「人の嫌がることをしない」という価値観が、
日本人の中に根付いているってことなんだろうなと思っています。
法律で禁止されてるからとか、宗教的にNGだからじゃなくて、
自分の倫理観でそう思えるのが、世界的には
日本人の思いやりのある面、優しさなのだろうな、と。

一方で、フランス人の価値観の中では、表現の自由が、
日本で感じる「人の嫌がることをしない」の感覚と同様、
根本レベルで染みついています。

この「人の嫌がることをしない」と「表現の自由」が重なり合う部分があるので
微妙に日本人の中に居心地の悪さを呼び起こすんでしょうね。

(とはいえ、これじゃあテロが起きてもしょうがない、とか、
そのせいでテロが起きて周りに迷惑をかけるんだからやめるべき
っていう話には、私は???ですが。)


ところで、フランスでは、デモクラシーというのが、宗教より上に来ています。
この人たちの言うデモクラシーは、ざっくりいえば自由とか平等、国民主権のことです。
で、それをどうやって手に入れたかというと、
王様とキリスト教を徹底的に倒して得たもの。
しかも結構大変で、血みどろで、犠牲になったものも多かった。


フランス自体は王政とキリスト教のタブーを徹底的に倒して、
その上に作り上げた国です。
この人たちは歴史の中で、宗教より普遍的な価値を選び、
神様からいったん離れることで、自由を得た。
フランス革命の話です。
イスラムだからどうこうではなくて、キリスト教だからでもなくて、
宗教的なものより、人間の持つ理性、自由を求める精神がモノを言う国。
宗教はプライベートの範囲で自由、という事になっています。


このフランス革命、一般的に記憶されているのは
ルイ16世&マリーアントワネットのギロチンで王政の廃止ですね。
そこへ至るまで、一般の人たちが苦しんできた時代があって、
哲学なり革命思想が発展するまで時間がかかっていて、
ギロチン後も、国をまとめるまで少なくとも10年かかっています。

その、国民が苦しんでいた時代。
旧体制の風刺画

世界史の資料集で見た気がするこちら。
苦しんでる一般人の上に貴族と聖職者がルンルンで乗っている絵。
この頃の一般人は、税金を取り立てられ、土地の所有は許されず、
政治を批判しようものなら牢獄に入れられる生活でした。
奴隷貿易が行われていた時代、それから革命直前は
食べるものにも困ることがでてきました。

一般人の生活難、一方でご存じマリーアントワネットの世界のように
貴族・教会関係者だけが贅沢している状態、
ちょうどそのころの思想の発展があいまって、フランス革命へ。

この革命でたおされたのは王政だけではなく、
伝統的に権力と資金力を独り占めしていた教会も同様。
革命後、聖職者たちは新しい共和国のルールに従うことを求められ、
教会の財産は国有化されて、聖職者は国からお金をもらう、
いわば公務員みたいな立場になりました。
(革命が落ち着いた後、この決まりは廃止されました)

旧体制を倒したは良いけど、これまで贅沢していた貴族とか聖職者の中には
革命反対な人がもちろんいたし、
革命派の中でも穏健派、中庸派、急進派と別れていたりも。

一方で、国の体制をひっくり返す出来事だったので
「みんなが良いように」とすんなり行かなかったのも事実で、
最終的には急進派のロベスピエールという人が先頭に立って
反対派・穏健派の人たちを粛清し、
力づくで革命を成し遂げた経緯があります。

粛清で、どのくらい処刑しまくったかというと、このくらい。


そびえたつすごい数のギロチン台。
断頭台を操作しているのがロベスピエール自身です。
で、乗っている人は、死刑執行人。
散々みんな処刑してしまったので、
あとは執行人くらいしか処刑する人がいない・・・の図。

今振り返ると、この粛清は「まぁ、褒められたことではない」
という感覚がフランス人の中にもあるらしいのですが、
一方で、「でもこうでもしなければ確かに革命は達成できなかった」というのも
共通して認識されている事。

革命までに大勢の市民が投獄されたり犠牲になっていて、
結局王様を処刑することになり(市民は最初はこれは求めてなかったらしい)、
その後も各ごたごた、ロベスピエールの粛清があり、と、
多大な犠牲をはらってやっとの思いで手に入れた人権、デモクラシー。
あれほど大変だったからこそ、それを今手放すという選択肢は
フランス人にはないわけです。
彼らにとってそれは200年前に後戻りするのと同じだから。


と、日本人が想像するより必死で、フランス人が
「表現の自由」を守ろうとする理由がこの辺りに垣間見えます。

先日のパリでの追悼&抗議行進を見て、
私はフランス革命を想いました。
革命で手に入れた自由が再び脅かされた時、
この国の人たちが革命の頃と同じように集ったのかなと。


あともう一つ。
2つしか載せませんでしたが、
革命前、弾圧されている市民の不満を表すのに、
たくさんの風刺画が描かれています。
絵だけではなく、文学だったりとかもあるのですが、
とにかく、フランスではこの時代から、社会の問題を暴くために
「風刺」という手段が取られています。
最初の絵では、時の権力者である貴族と教会、
二番目は、革命家・・・だけどちょっと行き過ぎてるロベスピエール。
特にこの二番目のは殺しすぎちゃって死刑執行人を殺そうとしているという、
学の無い一般市民にも状況がわかり、
しかも微妙にクスッとくる、風刺画の分かりやすい例ですね。
こう見ると、風刺、皮肉はフランス人根っからなのが見て取れます。

というわけで、フランス革命から200年以上たっている現在でも
彼らはこの手段を使い続けており、
今回攻撃されたシャーリーエブドに限らず、
たいていの新聞、雑誌ではこの手の絵をふんだんに使っています。
日本の新聞でもあるけれど、フランスと比べると
この風刺画(カリカチュールといいます)の重要度は低い様な。


この国のデモクラシーの重要性と、
カリカチュールが昔から根付いていることを踏まえると、
シャーリーエブドのカラーと、攻撃を受けた後のフランス人の行動が
少しわかりやすくなるかな?と思って、長くなりましたが書きました。



というわけで、せっかくなのでこれまで
シャーリーエブドがこれまでに発行してきた一面の絵をちょっと紹介。



前回の記事にも載せたこちら。
2012年11月2064号
2012年は、フランスで同性婚を認める法律について議論がされていた年です。
最終的にこの法律は可決されて、同性での結婚ができ、
子どもを養子に迎えることが出来るようになりました。

当時、キリスト教関係からの強い反対があり、あちこちで反対のデモが行われました。
キリスト教的には、結婚とは家族を築く=子どもを作るための制度。
子どもを作るのが不可能な同性愛者の結婚は認められない。
「家庭内に父親二人・母親二人は要らない!」というのが彼らの主張です。

そこへきて「Mgr vingt-trois a trois papas」
・・・「23世閣下にはパパが3人」。
23世とはこの時のパリの枢機卿のこと。
フランスでのキリスト教の指導者みたいなものです。

聖なる父とキリスト、精霊の三位一体説を使って
キリスト教の中世的な価値観を批判しています。





こちらの人物はオランド大統領
2014年8月1157号
「Zero Croissance」は「ゼロ成長」です。

ライフセーバーのいでたちでビーチから海を見下ろしていますが、
その海には溺れかかっている(既におぼれている)たくさんの人たち。
彼は「On ne bouge pas!」とのことで「何にもしないよ!」と。

フランスの景気もあまりよくなく、国民生活は厳しくなる一方ですが、
有効な政策を取っているとは思えない
オランド政権の批判です。



続いて、マリー・ルペンという女性政治家

2014年5月1145号
マリー・ルペンとは、最近幅を利かせているらしい、
フランスの極右政党FN(国民戦線)の党首です。
最近景気の悪化、移民問題の浮上で、
フランスは全体的に右傾化しています。
この政党は、ヨーロッパ系&キリスト教系のフランス人の恐怖心をあおって
支持を拡大しているにはいるんですが、過ぎたるは及ばざるがごとしで、
冷静に考ると彼女の政策は多分イマイチです。
人種差別、外国人排斥に繋がる思想が根底にあるので、
この政党の支持率アップに危機感を感じているフランス人も多いのが事実。

「Que veulent 25% des francais?」「25%のフランス人の求めるものは?」
とタイトルが打たれています。
この25%ってのは、彼女が主張するフランス人のこの政党の支持率。
でもちゃんと数えるとFNの支持者は10%弱になるはずだそうで。
勝手に「フランス人の4分の1に支持されてます!」と言い張っていて
時々叩かれています。

で、「25%(=FN支持者)の求めるものは?」の答えとしてシャーリーエブドが描いたのは
「あいつらを火刑台に送るジャンヌダルク」。
火あぶりの刑にされている人(=あいつら)には「外国人」の札が。

白人至上主義でそれ以外の者は追い出せというこの党の姿勢を
フランスのために戦ったジャンヌダルクと皮肉に重ねて批判しています。



続いて、これまたせっかくなので、イスラム関係のも少し。
今回の襲撃事件で殺害された漫画家「カビュ」は生前、
イスラム教を批判してるのではなく、過激派が増えてきて
何でもアリになっている様子を批判している。と話していました。
また、違う立場だからと言って
何でもかんでも批判するといった姿勢だったわけではないようで、
「宗教は一つのイデオロギーとみなしている。
イデオロギーであれば、どんなものでも当然批判の対象になりうる」とも。


こちらは、カビュが上のインタビューを受けながら例に出していた絵
2006年

ムハンマドが泣きながら
「バカに好かれる(支持される)のは辛い・・・」と言っています。

この絵はフランスでも当時反発を食らったそうですが、
カビュは「ちゃんと読んでください。」と、
右上に黒で書かれたフレーズを指して言っています。
「原理主義者にほとほと困っているムハンマド」。
バカって書いてあるけど、当然、イスラム教徒の事を指しているのではなく、
異教徒のみならずイスラム教徒でさえ意にそぐわなければ殺しまくっている
最近の過激派のことを指しているのです。

こんなんじゃ、ムハンマドだって、きっと困ってるよ・・・?という
過激派への問いかけに読み取れます。




「もしムハンマドが復活(再臨)したら・・・」



「俺は預言者だ、愚か者!」と白い服をきたムハンマドらしき人が言っていて
「黙れ不信者め!!」と叫ぶ人に首を切られそうになっています。

ムハンマドが説いてきたイスラム教と
過激派の主張が全然相容れない様子を描いています。




「海外で成功を収めるフランス人シェフ」
2014年11月1170号


フランス人シェフといえば、料理の世界では国内外問わず
名を上げている人が多いわけですが、
それは人質の首をはねる場面でも発揮されている模様・・・。

2014年末、イスラム国でフランス人が人質に取られたのち
殺害された事件がありましたが、
殺害を実行したのはフランス人であることが分かり、
イスラム国に参加するフランス人が増えつつあることに
スポットが充てられていた頃です。




と、こうしてみるとシャーリーエブドの一面の絵も、
これまでとちょっと違く見えてきませんか?


0 件のコメント :